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プロは音楽をこう聴いている。音楽評論家 柳樂光隆が教える2019年的音楽DIGの4ステップ

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テレ東プラス

2019.2.18

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「◯◯をしてみたいけど、どうすればいいの?コツはあるの?」そんな疑問は、その道のプロに直接習ってみましょう。今回は『正しい音楽の聴き方』を教えてもらいます。

Spotifyなどのサブスクリプション・サービス、YouTube、レコードショップで購入したCD。そこで手にしたあらゆるジャンルの音楽を、私たちは日常のさまざまなシーンで聴くことになります。ライフスタイルや嗜好と密接に結びつきながら、繰り返し再生されるミュージック。そうして生まれた「お気に入り」の音楽は、さらに日常へと流れ込み、生活に豊かさを与えてくれます。その一方で、こういった疑問を持ったことはありませんか?

「自分は音楽を聴けているのか?」と。

とはいえ、難しい理論を学んだり、ドラムやギター、ベースを買ったりして、作り手の耳を持つのは、いささかディープすぎる。でも、少しだけでもいいから、お気に入りのアーティストが奏でる音楽の何が心を打つのか。それを知ってみたいと思いませんか?

次世代や現代のジャズシーンを紹介する『Jazz The New Chapter』の監修者で、ジャズ評論家の柳樂光隆さんは、どの楽器がどの楽器とシンクロしているのか。サックスやドラム、ベースの楽器の音を取ることができると言います。音大を出たわけでもなければミュージシャンでもない。でもレコードショップやジャズ喫茶で膨大な音を蓄積してきた柳樂さんにコツを教えてもらえば、違った「音楽の聴き方」を知ることができるかもしれません。ということで、柳樂さんに音楽の次なる楽しみ方を教えてもらうことにしました。

音楽の大切なことはクラブやDJから教わった

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ステップ1:
人に勧められたものを片っ端から聴いてみる

―率直に言うと、音楽評論を専門としている人でも「この人は音をちゃんと拾えているのか」という疑問がありました。柳樂さんはどうやってそれぞれの楽器の音を捉えられるようになったのでしょうか?最初はただ聴いてただけですよね?

柳樂光隆(以下、柳樂):そうですね。実はジャズ評論家になったのは、大学時代の彼女がジャズ研だったから、というのがきっかけで(笑)。ジャズ喫茶に通うようになってから、のめり込みました。

―ジャズではさまざまな楽器が使用されますが、どのあたりから聴き分けを意識するようになったのでしょうか。

柳樂:僕が大学生の頃は、クラブDJがジャズをかけていたんですね。それと、レコ屋の周りによくいたので、アナログレコードでDJをやっている人も多く、その人たちもジャズをかけていました。ヒップホップのDJがプレイするレア・グルーヴと呼ばれるジャンルの中にもジャズは入っているので、クラブでもジャズを聴いていました。DJはお客さんを躍らせるためにリズムの部分を強調したくて、DJミキサーでロウ(低音域)の音を上げたり、ハイ(高音域)を下げたりするんですよ。

そうなると、「ドラム」と「ベース」の音だけが際立ってくるんですね。そういうDJならではの音楽のかけ方を聴くことで楽器の特徴をクラブで学んだような気がします。そして、音楽ライターをやっている今もそういった聴き方は自分にとって現実的だと思います。僕が音楽を聴くときに意識することは、ドラムセットのどこをたくさん叩いているかですね。スネア、タム、ハイハット、シンバルだけじゃなくて、リムショット(スネアドラムの縁を叩く)など。ライブや動画でドラマーの動きを見ると、どこを叩いているかをよりイメージしやすくなると思います。

―もともと音楽をやっている人たちはハイやロウ、ミッドなど言われても分かるけど、未経験の一般リスナーにはまだ難しいとも思うんですよね。音楽についての知識はどうやって得たのですか?

柳樂:レコ屋のお客さんとしゃべることやDJの友達、ジャズ喫茶の店主としゃべることで学んでいったんだと思います。音楽理論をどこかで学んだわけではなくて、周りの話から「こういうことかな?」と想像しながら理解していきました。そして、レコ屋でレコメンドされているものを買って、ジャズを好きになっていった。これはどの音楽にも言えると思いますが、レコメンドや周囲の意見を積極的に取り入れることは、かなり大切な要素だと思うんですね。

当時は、DJが選んでいるジャズが好きだったので、青山の『BLUE』や、渋谷の『Organ bar』とか『ROOM』、そういった生音系の小箱にも行きました。そういうクラブでDJがかけているジャズのレコードを集めたディスクガイドが出たり、雑誌で紹介されたりしていたので、本や雑誌で学んで、時々クラブの現場にも行ってみたりしながら、レコードやCDを買っていました。

ステップ2:
クラブに行って、曲の繋ぎやDJの人の手元を理解してみる

―聴き分け、に関しては何がきっかけだったのでしょう?

柳樂:僕が大学生の時くらいは、Radioheadの『KID A』(2000年)、ディアンジェロの『Voodoo』(2000年)、くるりの『ワールズエンド・スーパーノヴァ』(2002年)があって、バンドの人たちが打ち込みを入れだした時期だったんです。そんな経緯もあって、生音と打ち込みが混ざっている音楽が注目されていたんですね。当時から僕は「どれが人間がやっていて/どれがそうじゃないか」にすごく関心があって、その理由はどちらかと言うと人間が演奏している音が好きだったからなんです。だから人間が演奏しているそれを聴き分けたかった。ディアンジェロや彼のバンドで演奏していたザ・ルーツがそうなんですけど、打ち込みっぽいリズムや質感を人間が生演奏で再現する、みたいなトレンドもあったんですね。

だから、「打ち込みか/そうじゃないか」を分けて考えていたのが大きい気はしますね。当時は機材も進歩してなかったので、打ち込みはいかにも機械で打ち込んだ質感の音も多くて分かりやすかったんです。つまり昔は打ち込みと生音の差が露骨に分離してたので、それを聴き分けながら、音楽を楽しんでいました。今は演奏法も進化していてドラマーが機械を使わずに機械で打ち込んだような音を叩くことも増えたし、ドラム自体にエフェクトをかける人も多くて、機械と人間の境界はかなり曖昧になっていて、それが音楽を面白くしています。個人的には、判別が難しいからこそどこまでが人間の手によるものなのかを聴き分けるのがより楽しくなっていますね。

ステップ3:
リズムの"ゆらぎ"を楽しんでみる

―ある程度、音を拾えるようになった人のネクストステップとして、もう少しのめり込んで音を聴き分けたい、というリスナーはどうすればいいのでしょうか?

柳樂:たぶん、フィギュアスケートがわかりやすいと思います。

―フィギュア?

柳樂:羽生結弦選手の動きって早いし滑らかそれでいてリスミカルじゃないですか。でも、同じ大会に出てる20位くらいの選手って、素人の僕たちが見ても明らかにレベルの違いが分かるくらいに動きの質や精度が違いますよね。演奏も同じで「キレ」って言語化が難しいですが、スポーツに置き換えて動作レベルで考えてみるとよく分かると思うんです。

音楽に話を戻すと、特にドラマーは分かりやすくて。「叩く」というフィジカルな動作の積み重ねなので、すごい人の演奏の「キレ」は感覚的にすごいなって感じ取れるはずです。

あとはリズムも大切ですよね。ドラマーがリズムをずらすにしても意図的にズラしているのか、そうでないかは違うから。ズレているんじゃなくて、ズラしているとか、わざとちょっとだけ遅らせてるとか、そういう繊細な"ゆらぎ"みたいなものに気づけると音楽をより楽しめると思いますけどね。日本で注目しているのは石若駿というドラマーで、彼の演奏をぜひ見てほしい。




―柳樂さんのいう"ゆらぎ"って、演奏で遅れた音が次に乗る感じや、楽器のスピードが早いために他のパートが付いていかざるを得ないことの気持ちよさだと思うんです。「ゆらぎ」に対して、人はなぜ面白いと思うのか、その感情の部分を言語化してもらえればと。

柳樂:ドラマーのマーク・ジュリアナやリチャード・スペイヴンが分かりやすいと思うのですが、彼らはテクノのような、ジャストなリズムをひたすら同じ間隔で叩き続けられる驚異的なドラマーなんですね。人間的な「ゆらぎ」みたいなものを完全に排除したいというか、むしろ「機械になりたい」というタイプの。

―機械になりたい(笑)

そういうタイプのドラマーの話で印象的だったのは、機械が叩くとそのままジャストで硬いんだけど、人間が叩くとリズムがマッサージされていくみたいに、柔らかくなると言っていたこと。ドラム自体もそうなのですが、同じリズムセクションのベースとの兼ね合いも含めて、リズムって少しずつ少しづつ噛み合っていくものだと思うんですよ。




―リズムに対して正確という意味で"上手いこと"が美徳になることと、音のグルーヴによる呼吸の違いが楽しめるのは、ジャズが常に変化を繰り返す、有機体の音楽だからですよね。

柳樂:そうですね。ジャズは有機的な「ライブ・ミュージック」だから、いろんな変化を聴くのが楽しいんですよ。

あと、僕は「誰が演奏しているか」を意識的に聴いています。例えば、宇多田ヒカルのアルバムで世界的なジャズドラマーのクリス・デイヴがドラムを叩いてます。彼は自分のドラムセットを持っていかずに宇多田さんが使っているスタジオにあるドラムセットをそのまま演奏しているんです。それでも彼の音がするわけですよ。

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ステップ4:
客演のプレイヤーの音楽をディグ(深掘り)してみる

―なるほど。でも感覚的にはわかるんですけど、原理的にはまだわからないです。

柳樂:道具は違っても、その人ならではの音色が出たりします。音楽は聴き比べたほうが楽しいんですよ。つまり、アデルで叩いているクリスと、宇多田で叩いているクリスと、ロバート・グラスパーで叩いてるクリスで比べてみるといいと思います。並べて聴いてみるとちょっとづつ違うけど、同じ人だなって感じはすごくわかりやすいと思う。

―まずクレジットをちゃんと見て、誰が演っているのかを知ると面白いと。

柳樂:今はAppleMusicやSpotifyのプレイリストもあるから、ひとりのアーティストが関わった音源を並べて聴き比べてみるのもいいですよ。僕は好きになったミュージシャンが参加している音源をひたすら探すのを昔からずっとやっていたんです。音楽って「この人が参加しているとこういう音になって、こういう質感になる」というのがすごくたくさんあるので、その違いを聴くだけですごく面白い。

ジャズって面白くて、必ずしもバンドのメンバーが固定されてはいないので「いつもはこのメンバーなんだけど、今回ドラムが来られないので別のメンバーが来ます」ということがよくあるんですよ。その時は、ドラマーが変わったら、そのバンドの音楽がどう変化するのかがワクワクするポイント。音楽をさらに深く聴こうと思ったら、クレジットを見て、演奏者を別のアーティストの場合と比べてみると良いと思います。

撮影協力:KAKULULU

プロフィール:
柳樂光隆 /1979年島根県出雲生まれ。音楽評論家。『MILES:Reimagined』、21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に後藤雅洋、村井康司との鼎談集『100年のジャズを聴く』など。

(後編はこちら)

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